守りの資産としての金投資– Defensive Asset –

短期の値上がり益を狙うよりも、手元資産の価値を守りながら腰を据えて運用したい方に適しているのが金への投資です。世界では同時株安や各地の紛争・テロなど予測の難しい出来事が突発的に起こりやすく、先行きを正確に読むのは容易ではありません。
こうした不確実な環境だからこそ、国や通貨を超えて通用する普遍的な価値を持ち、歴史上「無価値」と見なされた例のない金は、資産の防衛と分散の両面で有力な選択肢と言えるでしょう。

【金投資に向いている方】
値上がり益の速さよりも安定を優先し、保有資産の保全を意識して投資したい方。

【金投資に向いていない方】
値上がり益の即効性を求める場合、金は特性上マッチしにくい資産です。

目次

金投資の基本

守りの資産と呼ばれるほど、安定した価値を持つ金。
金投資による、より安定的な資産形成のために、3つの心得と投資のリスクをチェックしましょう。

3つの心得

長期の保有を前提に余裕資金をあてる

金投資に対する取り組み方は、プロのディーラーと一般投資家とでは大きく異なります。プロのディーラーの場合は短期的な値動きを利用して利ざやを稼ぎ出すことを目的に金を売買していますが、一般投資家にとって金はあくまでも長期の資産であり、守りの資産であるからです。

以前は値上がり期待で金を買われるケースも多かったようですが、最近の傾向としてはあくまで資産保全として買われるケースが大勢を占めています。
国際情勢の先行きの不透明さ、将来の年金不安などがあることは言うまでもないでしょう。
多少の相場の変動にもあわてず長期にどっしりと構えていられる点が、一般の投資家にとっての優位性なのです。
何しろペーパー資産と違って金は実物資産、つまり無価値になることはありません。
だから値が下がれば上がるまで待てばよいのです。

ただそうは言っても、日々価格が変動しているのは事実です。乱高下しながら上昇カーブを描いたり、その反対に乱高下しながら下降カーブを描いたりしますから、いくら無価値にならない資産だからと言っても、価格変動リスクを全く無視するわけにもいきません。
仮に金価格が上昇基調にある場合でも、近い将来使う予定のある資金を投入するようなことは控えるべきでしょうし、もちろん資金を借り入れして投入することなど論外です。
なぜなら期限付きの資金をあてて金投資を行うと、金価格が高くても安くても否応なく売却または市場売却受託サービスを利用しなくてはならなくなるからです。
高値で買って安値で売却または市場売却受託サービスを利用して金銭で返還を受けるなど、誰もしたくないに違いありません。

繰り返しますが、金は株式などのペーパー資産と異なり無価値になることはありませんし、不動産などと異なり保有するだけでは税金がかかることもありません。
その意味で金はもともと長期保有に適した資産ですから、その特質を生かしてあくまでも長期保有を前提に余裕資金をあてることを心掛けてください。

時期と資金を分散して買う

日々の相場は上がる日もあれば下がる日もあります。
とりわけ円建ての国内金価格は、ドル建ての国際価格の動きに加えてドル/円の為替にも左右されるため、翌日の水準を正確に言い当てることは不可能です。
買った直後に上昇することもあれば、逆に下落することもあり得ます。
言い換えれば、短期の当て物に執着しても労多くして実りは乏しく、心理的な負担ばかりが増えがちです。

とはいえ、価格が日々揺れる事実は避けられません。
相場は市場が決めるものであり、投資家がコントロールできない領域です。
だからこそまずは「値動きはあるもの」と受け入れたうえで、変動しても致命的なマイナスにならない方法で向き合うことが重要になります。

そこでヒントになるのが「分散」の考え方です。
一般的な分散投資は、預貯金・保険・不動産・株式・債券・金など資産の“種類”を分けて一極集中を避けます。
これを金の購入に応用するなら、分ける対象を“時期と資金”に置き換えるのが要点です。
大きな資金を一度に投入してしまうと、のちに大きく下がって「今が買い時」と感じても身動きが取りづらくなります。

最初から購入タイミングと投入額を複数回に分ける前提にしておけば、仮に将来価格が下がっても買い増しが可能です。その結果、取得単価が平準化され、下落局面のリスクを和らげられます。
株式で言うところの「ナンピン買い」に近い手法ですが、無価値にならない実物資産である金とは特に相性が良いアプローチです。

保有分の売却や、市場売却受託サービスを利用して金銭で返還を受ける場合も同様に、実行する“時期”や“重量(数量)”を分散するのが望ましいでしょう。
金そのものが無価値になることはありませんが、高値で買って安値で売る――そんな結果は避けたいはずです。

繰り返しになりますが、金との付き合い方の基本は「長期保有を前提に、余裕資金で行う」こと。
そしてもう一つの心得として、「購入や売却のタイミングと資金を分散する」ことを習慣化してください。

短期より長期の価格トレンドを読む

昔から金は「二つの顔」を持つと語られてきました。
一つは宝飾品として流通する“商品”の顔、もう一つは実物価値を背景にした“マネー”の顔です。
前者は需要と供給の動きに敏感に反応し、後者は地政学リスクや金融不安といった国際情勢の影響を受けやすい――この二面性こそが、他の資産にはない金の大きな特徴と言えるでしょう。

では価格は何で決まるのか。
一般に「需給で動く」とも「情勢で変わる」とも言われますが、どちらも正解です。
整理すると、中長期のトレンドは世界の需給バランスに左右されやすく、目先の値動きは国際情勢の変化に振れやすい、という理解が実務的です。

とくに緊張が高まる局面では、差益狙いの短期資金が活発化し、値動きが荒くなりがちです。
数か月のうちに円建てで1グラムあたり200~300円程度振れることも珍しくありません。
もっとも、こうした投機資金は長期保有を目的としないため、先物で買われたポジションは短期間で手仕舞われやすく、急騰の後に急落を招くケースもあります。
有事などを材料に価格が跳ねている場面では、冷静さが求められます。

一方で、金は株式や債券と異なる実物資産であり、無価値になることがありません。
さらに不動産のように保有しているだけで固定資産税が発生することもないため、長期保有に適した性格を備えています。
ゆえに長期資産として金を位置づけるなら、短期的な上下に惑わされず、より長いスパンの価格推移を確認しつつ、世界全体の需給動向を参考にする――この姿勢が健全な向き合い方と言えるでしょう。

投資のリスク

価格変動リスク

市場環境(需給・為替・金利動向など)の変化に応じて、金の価格は日々上下します。
取引の時期や水準しだいでは利益が出ることもあれば、反対に損失となる場合もあり、金には価格変動リスクが避けがたく伴います。
なお、同様のリスクは株式や不動産といった資産にも見られます。

為替変動リスク

国際市場で金は主に米ドル建てで取引されます。
一方、日本での売買は円建てのため、国内価格はドル/円の為替動向に左右されます。
たとえ国際金価格が動かなくても、円高に振れれば円建て価格は下落し、円安に進めば上昇しやすい――この性質上、金には為替変動リスクが不可避です。
なお、外貨預金や海外の株式・債券、海外不動産など、外貨建てに分類される資産も同様に為替の影響を受けます。

流動性リスク

資産選びで押さえておきたいのは、「必要なときに現金へ換えやすいか」という点です。
換金までに手間・時間・コストがかさむものほど、流動性リスクは高いと判断できます。
金については、500グラム未満の取引では手数料が発生しますが、500グラム以上なら手数料は不要で、手続きや所要時間も大きくありません。
したがって、金の流動性リスクは相対的に低いと言えるでしょう。
反対に、不動産や定期預金、生命保険のように換金までの手続きや期間が長くなりがちな資産は、流動性リスクが高い部類に入ります。

信用リスク

資産は大きく二つに分類することができます。
ひとつは「信用」をベースに発行されている「ペーパー資産」、もうひとつはそのもの自体に価値がある「実物資産」です。
金は希少性という独自の価値を持つ実物資産ですので、信用リスクとは全く無縁です。
不動産も実物資産ですから同様に信用リスクはありません。
その一方、預貯金、保険、年金、株式、債券などは、いずれも「信用」をベースに発行されている資産です。
経済が好調で、その発行母体の実績がしっかりしていれば問題なく資産の主役としての働きをしてくれますが、母体の業績が悪化したり信用が低下すると、そうした資産の価値は目減りすることになります。

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